フィールド日記


富士登山を考える

2002年9月18日

日本の最高峰の富士山は夏の一時期
大勢の人が登ります。

北アルプスなどの高山への登山と違い
あまり山に行ったことのない人が
気軽に登っているようにも見えます。

外国人の登山者も他の山に比べて
断然多いようです。

今年、家族ではじめて登ってみて、
登山者を迎える側の山小屋の姿勢に
おおいに疑問を感じました。

下の文は富士登山の時に書いたフィールド日記のコメントの一部です。
先日、僕のこの文に関して静岡県の富士山の近くにお住まいのS氏から
ご意見のメールをいただきました。
S氏は登山の経験も深く
富士登山の現状をよく把握されています。
了解を得てその文を掲載させていただくことにしました。



●2002.8.22掲載のフィールド日記のトップページのコメント

今回泊まった富士山の
八合目T館の朝食は1000円で
前日発泡スチロールのパックに詰めた
冷たいご飯にレトルトの小さなおかずで
小屋の食堂で食べて
お茶を所望しても別料金で
湯飲み茶碗いっぱい100円です。

水がほしくても
ペットボトルの500ccが500円で
水筒を持っていてもそれでしか水がかえません。
水の少ない山小屋でも
もっと登山者の身になってくれないものでしょうか。
きっと水不足で体調を崩す人もいると思います。

後略





●2002.9.16 S氏からいただいたメールからの転載。


 富士山の山室について感想を述べられていましたが仰る通り、南北アルプス等の小

屋とは比較にならないくらいひどいものです。もっとも彼らにしてみれば一年の内で

稼げるのは7月1日から8月31日までの2ヶ月だけなのでその間に1年分の収入を

得なければなりません。端から見ればボロ儲け商売に見えても仕方ありません。

 そもそも富士山は登り方が極めて特異です。即ち夜間に登山する人が多いことで

す。誰がいつ頃から始めたのかは知りませんが「あれっ!富士山って夜登る山でしょ

う?」といった具合に我々地元では常識になっています。私も試しに一度だけ夜間に

登ってみましたが疲れと眠気と寒さがいっぺんに襲ってきてとても登山を楽しむと

いった気分ではありませんでした。お鉢巡りをする気にもなりませんでした。頂上付

近でぐったりしている人たちはそんな連中です。

 元々富士山は登山の対象としては面白くない山の代表みたいな山です。岩、雪、

水、花、景色、等どれも無いに等しい山です。そんな山にあんな登り方をしたら一度

で登山が嫌いになってしまうと思います。

 トイレの問題も深刻です。南北アルプスのきれいになったトイレから見ると富士山

の山室のそれは原始時代に戻ったかのようです。

 山室の話に戻りますが、夜中に登る連中への対応で彼らは24時間営業なのです。

したがって客への対応も良くなく、食事も手が掛けられないし水も少ないので粗末な

物ばかり。ついでに糞尿の処理(汚い話で済みません)にも手が回りません。

 それもこれも全て「登山を観光にした結果」だと私は思います。富士山も他の山の

ように冬季以外は小屋を営業して観光客ではなくて四季を通じて登山客が来る山にす

べきです。もちろん夏でも夜は入り口の鍵は掛けないけれども山室としての営業は終

了するようにすべきです。そうすれば自然に夜間登山はしなくなる筈です。現状のよ

うな営業形態になってしまった上ではもはや手遅れかも知れませんが・・・


[私の言いたいことを整理して置きます。]
1.
最初の本格的登山が富士山、という人も少なからずいるのではないか。
そういう人たちに「登山って楽しい。また登りたい。
もちろん富士山にも」と感じてもらいたい。

2.
しかし富士山は登山の対象としては良い山とは言えない。
それは第一には南北アルプスに比べて
高峻山岳としての魅力が極めて乏しいからである。

3.
加えて山小屋(富士山では山室と呼ぶ)には設備、食事、接客態度、
トイレ、水不足、料金、押し売り、客引き、等々問題が多すぎる。

4.
また夜間登山が一般化しているが
3000mの山を夜中に登るのでは楽しい筈がないし、
そのために山室も24時間営業となってしまい、従業員の疲労が大きい。

5.
富士山を観光の山でなく登山対象の山とすべきである。
そのためには各山室を2ヶ月に限定せず、
南北アルプスのようにできるだけ長期営業させ、
真の「登山者のための小屋」を目指すべきであろう。

6.
登山者もただ「日本一の山だから登る」という態度を改め、
登山の対象として富士山をとらえるべきであろう。

以上、S氏のメールより転載。


うちの家族が泊まった山小屋は24時間営業で
入り口にある囲炉裏にはつねに火がおきていました。

囲炉裏端のはしごのような階段を登った屋根裏に
びっしりと布団が敷き詰められており
枕が100個は並べてあります。
宿泊客が満杯になったら足の踏み場もない寿司詰め状態になることでしょう。

富士山では消防法は適用外なのか
非常口は無く、出入りはその狭い階段だけです。
そこに家族と一晩泊まりましたが
火が出たら明り取りの狭い窓を破って逃げるしかないと考えました。
その日は泊り客が少なかったのですが
もし混んでいる日に火が出たら絶体絶命の感じです。

その屋根裏部屋は夕暮れ時でも窓がほとんどなく真っ暗でしたが
ぐっすり眠りについていた夜中の12時半ごろ
突然こうこうと蛍光灯が灯り大音量の館内放送で
ご来光のための出発を促すアナウンスがはじまりました。

それ以後まるで早く出て行けと言わんばかりに、
食事の用意が出来ているとか
もうすぐご来光が見えるとかの放送が頻繁に続きます。

「富士山に登らぬばか、二度登るばか。」
というような意味の言葉を聴いたことがありますが
登山者を迎える側の山小屋の姿勢が
二度は来ない客だからと
サービスそっちのけで
お金儲けにせいをだしているのだろうと
かんぐりたくなります。

いろいろの業種にいえることですが
独占の弊害は自由化により
だいぶ改善されてきているように思います。
しかし、富士山では旧態依然の客扱いで
数十年前と同じことをしているように見えました。

はじめて山に登った人はもとより
外国から観光に来て
日本の最高峰に登ってみようという
エネルギーのある若い旅人が
それぞれの国に戻りそんな日本の印象を
自国の人々に伝えているのだろうと考えると悲しくなりました。



●2002.9.21 S氏より再度いただいたご意見。

1.
登山経験の少ない人が富士登山をした場合、
富士山には登山対象としての魅力が
少ないので登山を嫌いになってしまう可能性が大きい。

2.
その上さらに山小屋でいやな思いをするとそれが決定的になる。

3.
夜間登山も登山を楽しいものにするには弊害となる行為だ。

4.
富士山を登山対象として魅力ある山にするためには
小屋をできる限り長期間営業し、
夏期以外の登山者の便宜を図るべきだ。

5.
また、小屋その物の設備を改善し、
快適な宿泊ができるようにすべきだ。

6.
そうすれば、積雪期・残雪期の富士山には充分とは言えないまでも
登山対象としての魅力があるので登山者が増える。

7.
そうなれば小屋は夏期だけに頼っている営業形態を
通年に近い営業形態に変更でき、経営が安定すると思う。

8.
不快で危険を伴う割に現状平然と行われている夏期の夜間登山を
減らす方向に持っていく。

9.
富士山を真に良い山としたい。

 以上ですが上記には四季を通じて登山者が増えることによる自然破壊等は考慮して
いません。

 富士山が世界遺産に登録されないのは小屋に問題がある、というようなことを聞い
たことがあります。正に我々が今論じている事柄だと思います。

   「客引き」に関してですが5年ほど前の夏、次のようなことがありました。

1.
我々は7月20日頃、富士宮口から午後登りだした。
2.
この日は8合目泊の予定で、16時頃もうすぐ8合目というあたりに差し掛かった。
3.
登山道脇から30才位の男性が突然声を掛けてきた。曰く「今夜泊まる小屋は決
めていますか?もし決めていないなら泊まり客が少なくて空いている御殿場側の小屋
に泊まりませんか?そこまでの道は後で教えます」とのこと。
4.
富士山でこのような経験は初めてだったので大いに驚いた。この日はそれほど込
んでいないようだったので彼の誘いを断り、我々は予定通り富士宮口8合目に泊まった。
5.
確かに御殿場口は下山道として利用され、素通りされてしまうので小屋としては
宿泊者が少なくて困っているであろう。しかしこのような下界と同じような客引きは
まったく興ざめであった。しかも彼が教えようとした御殿場側への巻き道は明らかに
正規ルートではなく、自然破壊を助長する恐れがある。

以上、S氏のメールより転載。

静岡県の富士山の近くにお住まいの
登山家であるS氏から再度ご意見のメールをいただきました。

ご意見を読んでいると、
S氏が世界に誇る郷土の山としての富士山を愛し
よくしていこうという気持ちがひしひしと伝わってきますね。



●2002.9.23 「富士登山雑記」Ishi氏のメールより。


11時頃五合目に着いて、上り4時間・下り2時間と言う、 今では考えられない位のスピードでした。 その弊害で、頂上で「高山病を初めて体験」し、 頭痛で横になって、30分そこそこで下山。

富士山のイメージは、

1.
高山病を体験できる「山」。
2.
海外登山する人には、高度順化に良いかも。
3.
高度順化する為に八合目付近の「山室」に1泊するのが良いと、
山の本に書いてあった。
「なるほど」と思っていた。
体の為に「山室泊」と考えれば、いくらか「極悪体験」も許される?
4.
それから二度目の富士登山は、行っていない。
5.
「極悪な山室」には、泊まりたくないから、五合目で車中1泊し、
いくらか高度順化して、早朝出発で往復しようと思うが・・・。
それでも、高山病が出るとなると、
「二度と行かない」から「三度と行かない」となるでしょう。
以上

以上、(僕の昔からの山仲間)Ishi氏のメールより転載。

Ishi氏は「極悪な山小屋」との表現をしておりますが
読んだ方が僕の書いたコメントに
そのような要素を感じたとしたら印象を訂正させていただきます。

僕の印象は、
昔どおり(だと思われる)方法のまま今も営業を続けていて
そのやり方にお客に対するサービスの気持ちや
思いやりが感じられなかったのです。
それにしても僕はもう二度と泊まりたくないと思いました。








2003年5月2日いただいたT氏のメールより転載。


「富士登山を考える」を読みました。私も、数回富士山に登っておりますが、同じよ
うに悲しくなりました。富士登山における不快な扱いはまったく変わっておりませ
ん。あれこれ命令され、しけってくさい布団に詰め込められ、そのうえ大金を取ら
れ、不衛生な便所にまで意味のないお金を支払わされます。

 現在行われている富士登山は富士信仰に基づく信仰登山から始まっています。だか
ら夜間に登り山頂でご来光を拝むというスタイルなのです。また、富士山にある宿泊
施設は、本来信者が泊まるための宿坊のようなものであり、決して登山者のための山
小屋ではありません。ですから北アルプスにある山小屋のようなサービスを求めては
いけないのです。また小屋にしてみれば、信者(客ではない)は一生に1度しか泊ま
らないからサービスしても意味が無いのでしょう。 

 夜間登山には山頂付近の渋滞、落石の危険など、いくつか弊害があります。もうひ
とつの弊害は高山病です。富士登山では、八合目付近泊が一般的ですが、八合目の
標高は3400bほど。この高度は日本人の多くに高山病が出る標高です。寝ると呼
吸が抑制され高山病が悪化するきっかけとなります。

 そこで提案したいのは、昼間富士登山です。5合目の宿泊所で1泊し、ある程度の
高度に体を慣らしてから早朝出発。昼頃山頂に到着し、午後下山する、というもので
す。これなら小屋で不快な目に遭うことはなく、南アルプスなどの山岳展望は楽し
め、短時間で登山を終えるために高山病の影響は抑えられます。カラマツがハイマツ
のような姿になっているのも見ることができます。太陽光線はきついですが、標高が
高いため暑いということはありません。

 悲しいことですが、富士登山は信仰・観光登山のシステムに乗って行うと、日本最
悪の山でしょう。しかし、日本を代表する名山、富士を「2度登るばか」と決めつけ
てしまうにはもったいなさ過ぎます。富士山を登山対象の「いい山」にしたいと考え
ています。

O.T


以上、T氏のメールより転載。

T氏は僕の友人で山の経験の豊富な
プロの山岳ガイドで
ヒマラヤトレッキングのほか
海外登山のガイドとして活躍中です。





ここからが2003年5月7日の更新分です。以前の分は上にスクロールしてください。



2003年5月7日いただいたIshi氏のメールより転載。

[富士登山の改善処置を考える]

T氏の昼間登山賛成です。

登り6時間、下り3時間 頂上1時間 合計10時間が通常必要ではありますが、登
山愛好者には問題なしと思います。

遅れがちな人のために、路線バスの時間延長も考慮してもらう。ニーズがあれば、可
能では。

また、現在5合目に登山客数に見合う宿泊設備がないのも一因である。
そこで、現状から改善したい人のために、色々考えてみました。


【1】5合目宿泊で快適な登山を強調し、賛同者拡大。
      →HPや専門書に紹介等をする。
      →コスト安
      →自家用車で仮眠する人が増える。

【2】混雑期は自家用車は麓までと規制。
      →5合目の敷地が無くやむを得ない措置。
      →タクシー・バスを利用

【3】5合目バス駐車場を立体化。
   →3階建てには可能。駐車スペース確保。

【4】夜行高速バス開始。
   →仮眠者のためバスを解放を条件とする。

【対案】頂上近くの小屋は酸素供給設備を設け、快適昼間登山に対抗する。


以上、Ishi氏のメールより転載。

Ishi氏は僕の昔からの山仲間です。

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